ホツホツ。」と、からかひました。
「まア何とでも思つてゐるが好いさ……ところでもう来る時分なんだがな。」
「嘘つき、何アんだ、千代子なんて! お止めなさいよ田舎芸者なんて!」
「もう来る時分なんだがな、兎も角照ちやんは早くお帰りよ……邪魔だぜ。」
縦令それが手酷い冷笑でも照子が、何となく肯定してかゝつたゞけで私は、もういくらかの嬉しさを覚えたのです。いつも私は、根もない千代子のことを照子に意味あり気に仄めかすのです。――斯うなつて見れば、私にとつては照子だつて千代子だつて大した差異もないのです。
照子は「ちやんちやら可笑しいや。」などと此辺で用ひる野卑な冷笑の言葉をワザと叫んで、頭の櫛を気にしながらさつさと歩き出しました。私は、力を込めて照子を軽蔑しながら、女の素足に履いた草履の踵が砂をはね上げてヒタヒタと鳴るのを眺めました。
勿論千代子がこゝに来ることなどは、私は夢にも思つてはゐませんでしたのに、如何したことかそれから間もなく千代子が向方の渚を伝つて来るのを見て、私は唖然としました。
「昨夜あんなことを云つたが、まさかほんとには思つてゐなかつた。」
前の晩私は、古い友達に誘は
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