蔑すべきものゝやうに思ひながらも、慌てゝ鞄をさげて後から続いた。
「出つけないから、ほんとに困る――」
「そんなことはない。」
「外へ出ると、ワザと云ふことをきかないやうに見える。」
「多少、さうかも知れないな。外ではお前が、叱らないから……」と、自分が云ふと妻は、厭な笑ひを浮べた。自分も。
 吾々は、人気の少ない廊下に、二時間も待ち合せる者ではない。そわ/\した心でたゝずんでゐた。
 ふと気づいて見ると児は、自ら意識する武張つた大股で、直ぐ前の飲食店へつかつかと入つて行くのであつた。一寸した時の彼の癖で、力んで夫々の脚を踏むのである。――いつも自家へ帰る時の自分の心は、どこかあれに似たわざとらしさがある――などゝ自分は、不意と思つた。
 さつき待合室に居る時も、掛けるところがなかつたので吾々は人々の間に立つてゐたのであるが彼は、腰掛けの周囲を競馬のやうに駈け廻つたり、入口を廊下に出たり入つたりしてゐたのだ。彼は、そこの飲食店も客が一杯腰掛けてゐるので前と同じつもりで入つて行つたに違ひない。――吾々は、舌を鳴して追ひかけて行つた。
 広い食堂だが殆ど此処も空席がない位ひに混んでゐた。吾
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