で、少々煩さゝを覚へて、
「さうだ――この地方はアメリカならば、さしづめ西部地方に相当するのだから……」
「百合さんの家は、酋長の家柄なんだらうか?」
「まあ、待つて呉れ――」
彼は苦笑して、武一と竹下に向つて、
「騎手を提供すると云つたならば、余り野蛮過ぎるかしら?」
と相談すると二人は言下に否定して、
「折角八重さんを奪ひ返したばかりのところぢやないか。」
「そんなことを云つたら、奴等は無気になつて――ほんとうに娘達を奪ひかねないからな。」
と慄然とした。
そして、やはり、土蔵の鍵と一決した。――三人は、目星しい物品は大方これまでも生活のために売り尽してゐるガランとした蔵の中を同時に思ひ浮べた。
「剥製の標本類だけだね。」
武一が面白さうに呟いだ。
――然し彼等の相談が一決して、再び競技場に来て見ると、堀口と太一郎の姿は何処にも見あたらなかつた。――一同は、思はず顔を見合せて得体の知れぬ心地に打たれてゐると、八重が、
「あれ/\、彼処に!」
と叫んで、背後の芝生に覆はれてゐる明るい丘を指さすので、一勢に見あげると、馬を連ねた二人が烈しい勢ひでジクザクの小径を駆け昇つてゐた。その姿が、黄味《きばみ》の強い絨毯に似た芝生に影を吸ひとられて、黒く、シルエツトのやうに扁平になつて忙《せは》しく動きながら間もなく丘の頂きに達すると、青空を背景にして、此方を振り返つてゐた。声はとゞかなかつたが二人はそろつて片手を高く空に挙げると、何か口々に叫んだらしかつた。そして、見る間に丘の向ひ側に姿を没した。
百合子とローラと八重は、シヤツの腕まくりをして馬に乗ると、戯れらしくそろつてスタートを切つた。ゆるく駆けたり、急にスピードを出したり、さうかと思ふと曲馬の真似でもして遊ばうと話し合つたらしくピヨンピヨンと鞍から飛び降りて、駆ける馬を追つて横乗りに飛び乗つたり――夢中の競走をはぢめたりして、いとも自由に夫々の馬をあしらひながら止め度もなく嬉々として、小さな円形の馬場をはね廻つてゐた。
三人の男は、丘の中腹に段々となつてゐるスタンドで横隊に肩を組んで並んだまゝ、群像のやうになつて凝つと娘達の遊戯を視詰めてゐた。――水々しい光りが、擂鉢型の丘にとり巻かれた盆地の競場場に八方から降りそゝぐ滝のやうに集中して、キラキラと渦を巻いてゐる上に、その水煙りに似た陽《ひか》りを蹴
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