さうな弱さに囚はれてゐた。幼児のことは例に過ぎない、この頃の日増に鈍さが増して行くらしい自分の感情が、家族の者などを思ふ場合などに――。
斯んなことを云ふと、私が何か忠実な家族の一員で、世俗的な何かの負担でも感じてゐる(自分ではそんな風に自惚れることもあつたが)やうだが、私のこの他人に迷惑を及ぼす程の怠惰性は生来なのである。――この頃、私は、その内容に何か理由あり気なものを蔵してゞもゐるといふ風に考へるのは、自分に対する一種の虚飾的方便に過ぎなかつたらしい。この程度の鬱屈さならば私は、子供の時分から繰り反してゐる筈だつた。
母と、十五歳になる弟と、妻と、長男の栄一と、そして年齢だけはとうに成年に達してゐる自分と――。
私は、時々何も思ふことがなくなるとそんな風に僅かな自家の同人の数を算へたりした。――五人である。そして私は、自分の彼等に対する所謂「親情」が、斯んな風に技巧的に考へて見ると、程度の別こそなかつたが、夫々何となく形ちが変つてゐることなどを、強ひて思つて見たりした。……必要もないのに、母と弟を故郷に残して自分が東京などに別居してゐることが、憐れに思はれた。――そして自分は、今東京に出て勉強してゐる学生が夏休みを得て帰郷でもしてゐるやうに、「休養」を見せかけてゐるのだ。東京にゐたつて、今だつて、自分の生活にはなんの変りもないのだ。
「つまらないだらう、これぢや?」
母は、周子を顧て笑つた。――「何処かへ出掛けるつもりぢやなかつたの?」
「…………」
周子は、困つたやうな苦笑を浮べてゐた。
「あゝ、頭が重い――」
「そんなに毎日ごろごろしてゐれば、頭だつて重くもならうさ、誰にしろ。」
「……当分、此方に居るつもりで来たんだが、もう飽き/\してしまつた。」
「自分で一軒家を持つて見ると、仲々出先きでは落つけないものさ。」と、母は何気ない好意で云つてゐるのに、私は妙に意外な感を抱いたりした。勿論私には、そんな気は少しもなかつた。――一軒持つてゐる……私は、同じ言葉をそつと胸に繰り反して寂しい苦笑を感じた。どうして又そんな言葉が母の口から出るのだらう、自分が齢だけは成年に達してゐるにも係はらず、何の点から見ても考へも行ひもそれらしくならない……そんなやうな意味のことをつい此間だつて母は、厭味らしく云つてゐたではないか?
「まつたく見てゐる方でも可成り辛いか
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