そんなに気にかゝるのさ――公園の散歩が厭なら、銀座を歩かうよ、奇麗だぜ、店々の美しい飾り窓を見たり、見事に装ひを凝らした散歩の人々を振り返つたり……断然、そんな退屈な田舎とは違つて……」
「聞きたくないわよ。――」
「だけど今日は珍しく金貨を持つてゐるんだよ、今直ぐならば……」
「ほんとう!」
 と彼女は叫びました。「パラソルと水着位ひなら買つて貰へる?」
「好い水着を見つけておいたよ。セイラア・パンツのついたやつでね、うちの細君もね、そいつをひと目見たらすつかり気に入り若返つて、あんなのを着てメイと一処に海辺で遊べる日が待ち遠しい! と云つてゐるところさ。」
「買つて/\、それを!」
「今日なら、その他に踵の高い靴も買つてやれるだらう。」
「直ぐに、この次の汽車で行くわ――」
「では東京駅で待つてゐてやらう。」
 それで、その長距離電話は切れました。メイといふのは私達がつい此間まで住んでゐた寂しい海辺の村の「マメイド」と私達が称び慣れた貧しい酒屋の娘であります。私は村に住んでゐた日の限り、メイやメイの父親に少なからぬ厄介をかけたのでした。
 私は屡々酒に酔ふて、メイを指差し、芝居フア
前へ 次へ
全8ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング