空想力が働いて來なかつた。そして五體は、恰も枯木のやうに干乾びて、風邪の引きつゞきであつた。かあツと頭が熱くなると、急に脚の先から水がおし寄せて來るやうに冷え込んで來て、のべつにくしやみは出るし、鼻水は垂れるし、あまつさへ、レウマチスの氣味でもあるのか、腰骨や膝がしらが螺線のやうにしびれてゐて、全く埒もない有樣であつた。腹には懷爐などをあてゝ、木像のやうに坐つてゐたが、歩かうともするのには杖がほしいほどだつた。
酷く六ヶしい顏をして彼が、海邊の方を眺めてゐると、彌生が口笛を吹きながら廊下をまはつて來て、窓先の縁側に置いてある布椅子に寢ると、
「日光浴に出たいんだけれど、人がゐるんで困つてしまつたわ。」
と呟いた。パジヤマのパンツを穿いた長い脚を、恰度隱岐の眼上に組んで、桃色のスリツパをつつかけた一方の爪先を、天井を蹴るやうに動かせてゐた。
「姉さんは?」
「頭が痛くつて起きられないんだつて。―― menses なんだらう。」
「――日光浴は病人がすることぢやないか。」
「うつかり出任せなことを云つたら、婆さんたら本氣にしちやつて、お天氣が好いと屹度起しに來るのよ。――お孃樣お起き遊
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