これぢや堪らない。一層、別になつた方が好いと思ふばかりだわ。」
「妻に、そんな類ひの不安を與へるやうな男は死んだ方が増しだわね。」
「――生活! ほんとに、生活のことだけがちやんと出來ないやうな男は、何をやつたつて駄目よ。」
「ヴアイタリテイのない人間ほど醜惡なものはないね。」
二人は左ういふはなしに走ると夢中になつて、止め度もなかつた。隱岐も全く有無もなかつた。胸が震えるだけで、返す言葉などは一つも浮ばないのであつた。その上、二人の者に、あんな弱點を握られてゐることが敵はなかつた。
「あたし達が、こんなにやきもきしてゐるのが解らないのかしら。聞えないのかしら?」
「圖々しいのよ。」
「あんまり、人を馬鹿にして貰ひたくないわ――此方は何時も眞劍なんだから――」
默つてゐればゐるで、細君は更に業を煮すのであつた。
「馬鹿になんかしちやゐないよ。」
と彼は怕る/\呟くより他はなかつた。
「あゝ、焦れつたい。男の考へることまで、あたしは心配しなければならないんだもの。」
彼女は手細工の道具を力一杯投げつけたりした。どうせ、ものになるやうな腕ではなかつたが、畫でも描いたら少しは了見が廣
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