ふのは……」
隱岐は、さすがに蒼ざめて唇を震はしてゐた。長い間、知つて知らぬ振りを保つてゐた細君も細君だが、何時、どうして彌生はそれを口外したのか? と彼は降伏した。
「學校のことだよ。彌生が止めてしまつたのはお前のせゐぢやないか――」
隱岐は、彼女の學校の費用ぐらゐは續けてゐるつもりだつたが、はなしが大それた問題に陷ちてゐるので、二の句もつげなかつた。
うつかり四角張つたことを云ふと、今では彌生までが、それを叫び出す怖れがあつた。
二
「このカーテン何處に掛けるんだと思ふ?」
彌生は切りと圓い枠の中に針を動かしながら、妙に意地惡るさうな眼でちらりと隱岐を眺めた。隱岐はいちにち坐り續けた脚を炬燵の中に伸々とさせるのであつたが、折々爪先が彌生の膝がしらに觸つた。うつかりすると、平氣で彌生は無禮なことを云ふので隱岐は決して自分からは動かなかつたのであるが、如何にも邪魔ものが這入つて來たといふやうにぶつぶつ云ひながなら[#「云ひながなら」はママ]、彌生が窮屈がる度にひとりでに觸れて來るのであつた。それ位のことは彌生も無意識で、慌てゝ逃るやうな動作もせず、隱岐の方
前へ
次へ
全31ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング