私は、乱暴な友達に向つて、塚越をかばはずには居られなかつた。――一同は、裏切者を見出したかのやうな眼つきをして一斉に私を睨めた。
私は塚越と別段に親交があつたわけではなかつたが、青白い、見るからに病弱気な塚越が、そんな制裁を享ける光景は、想像したゞけで堪へられなかつた。
「塚越を殴るんなら俺を殴れ――とでも云ひさうな勢ひだね。」
その中で一番幅を利かせてゐる――中学四年生でありながら、既に柔道二段の選手である伊達が、微笑しながら私の肩を叩いた。
「殴りたければ殴つて見ろよ。」
と私は云つた。――すると一同は、急に、ハツハツハ! と声を挙げて笑つた。
「気位だけは一端だが、やられたなら君なんて、塚越よりも酷く参るだらうよ。ハツハツハ……」
と伊達が私の肩をつかんで、ゆすぶると、それぎり、皆なの、今迄の、「真面目な昂奮」は急に消えてしまつた。
――実際私は、一同の昂奮が私に向つて晴さるゝならば、独りで闘つても、何だか、負けぬ気がしてならない位であつたが、あんまり他合もなく氷解して見ると、此方も返つてテレ臭くなつて、皆と一緒に笑ひ出したが、胸の鼓動は未だ早鐘のやうであつた。
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