なく柱の中下部以下が三倍の太さとなり、壜型となつた。混沌の大気の中に、雲煙が凝つてアミーバが形成される概であつた。
 第一日の仕事を終へた。
 岡は壜型の氷結を防ぐために、濡襤褸《ぬれぼろ》をもつて幾重にも大切にこれを包んで、最後に毛布を覆つてから、肩のあたりを細紐でくゝつた。
「斯うして置けば、このまゝ――若し君が幾日休んでも大丈夫……」
「出来るだけ毎日来るつもりだけれど、万一あまり長く間を置くやうなことがあると、君の創作気分に触るやうな場合はありはしないかね?」
 私は、自信の無い受動的な気分ばかりで、そんなことを怖る怖る訊ねた。
「三年――」――岡は、眼をギヨロリとさせて唸りながら微かな笑ひを浮べた。――「三年、間が飛んでも此方は平気だよ。」
 石油ストーヴは油が切れて、丁度、自然と火が消えたところだつた。
 アトリヱを出て段々になつた桑畑を降り切ると、此処にも四角な掘立小屋がある。これも岡の手製の家で、以前彼は此処を木彫室に使つてゐたが、倉閑吉と鶴井大次郎が住み込むやうになつて以来は、二人のために完全に明け渡したのである。
 囲炉裡で、さかんに火が燃えてゐた。鮒が焼かれてゐた
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