らにゐる一人の実に美しい(と私に思はれた。)、凡そ、この小屋に不調和な近代風の洋装をした断髪の婦人が、女だてらにあぐらに似た坐り方で、この人だけはウヰスキイのポケツト壜を前にして栓のグラスを傾けてゐるのであつたが、稍ともすると、凝つと私の方を向いて、此方の思ひなしのせゐか、なんとも甘々しい視線でいつまでも私を眺めるのであつた。――それが私は気になつて堪らなかつた。
「寒玉子で一番大いに儲けてやらうと、たくらんでゐたところが、つい先頃鼬の奴にねらはれてあらかた生血を吸はれてしまつた上に、残つた連中が五羽ながら雄でね、二羽の雌と来たらそれ、そのトヤといふものにつきやあがつて、さん/″\の態たらく……」
「そ、それあ、どうも――」
 と私は上の空で同情した。
 そのうちに、あちらはあちらで、倉と鶴井の激しい喧嘩がはじまつた。
「まあ、大さんの声の大きいこと……」
 と婦人は、さう云つて、ほゝゝゝとわらつて、また、私の顔を見あげた。さつきの合唱中のあの「無神経質な偽陶酔状態を感ぜしめて身を切らるゝ百舌鳥に似たそぷらの[#「そぷらの」に傍点]」と形容した女声は、この人だな! と私は思ひあたつたが
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