ころがあるらしい――などゝ、私は今更のやうに思つた。倉の矮小に比べて、鶴井は六尺豊の大男であつた。
合唱中のあの[#「あの」に傍点]胴間声は鶴井であり、あの[#「あの」に傍点]てのうるは倉であることに私は気がついた。
三
で、私達がいそいで身仕度をとゝのへようとすると大次郎がさかんに手をふつて、そのまゝで/\と呼ばはるので、そのまゝ私も妻も上著を腕にかけ、泥の素足に靴を突つかけたまゝ小屋を目がけて駆け寄つた。小屋は相もかはらず此処を先途とはやしたてる合唱をはらんで、大浮れの絶頂であつた。ぽんぽこぽん/\のこうらす[#「こうらす」に傍点]が聴くも身の毛がよだつばかりに乱脈な調子で繰り返されてゐる。自分も酒に酔へばいつもあの通りに浮れて、あんな大はしやぎの旗振りになるのかと思ふと、真面目な人達に軽蔑されるのは無理もない――と私は思つた。
扉をおすと、歌は突然ぴつたりと止んだが、その時私は、思はず、
「あツ!」
と小声で叫んでしまつた。だつて、凡そ二坪ばかりの容体をもつた小屋の中に、まあ、何と、居るわ、居るわ! 数へやうもない、うよ/\とした者共が一杯、目白おしにつまつ
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