、回転が止らうとするほんの手前で巧みに両腕に掬ひあげた。
二人は腹を抱へて笑つた。
私達が、そんな遊びを繰り返してゐる間も絶え間なく小屋からは、酩酊者の合唱が響いてゐた。
「あの仕事が、はじまつたとすると、あれが済むまでは、東京へ移れないかしら?」
妻君の云ふのは、私のモデルのことゝ、私達が同じ町に住む私の老母との間のことであつた。私達は「町の生活」をあきらめて、東京へ移らなければならないと思つてゐたのであるが永い間機会を逸してゐた。
「移れないこともなからうが――時々、此方に来さへすれば好いんだからね。」
二人は芝生に寝転んで、空を見あげてゐた。
「おうい、おうい! 此方をお向き!」
さういふ声がするので私達が振り返つて見ると、窓から半身を乗り出して倉閑吉が切りと此方をさしまねいてゐた。別段に、傴僂といふわけはないのだが、背中の曲り工合と丈の矮小のあんばいから、それに比べて不釣合な容貌の魁偉さ、その上、いかなる類ひの婦人に対しても単なる機会次第に依つて、おそろしく大胆な恋を挑むのが習性である彼をさして、皆なは、ノウトルダムのカシモドと仇名してゐるが、
「なるほど――」
と
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