かつた。
 私は、先づ二人の間に割込んで、
「おいおい、あの銅像の裏手の空を御覧よ、近ごろ珍らしい豪勢な花火だらう。あれは進藤の――」
 と云はうと、決心した。「進藤の今日の仕事を讚へてゐるんだよ。」
 そして徐ろに盃を挙げながら、「大きな手」の批評にとりかゝらうと私は思つたのである。
「遅いのにも程があるぜ――少々借りが溜つてゐるので来憎くなつたんぢやあるまいな。」
「借りといつたつて、たつた三四両のことぢやないか――そんなことで、待ち呆けを喰はせられては堪らないぜ。」
「ひとの心持も知らないで、無責任だな。」
 私が入口に近づいた時、進藤と枝原が私を非難する言葉が聞えた。そして二人は、声を合せて、
「まるで漠然たるものぢやないか!」
 と唸つて、はツはツ! と興ざめ気な天狗のやうにわらつた。その二人の、「私」の声色が、守吉のよりも巧みなので私は、不図たぢろいでしまつた。――山の方を振り返つて見ると、大石の銅像の向方からは、次第に絶間の長くなつてゆく花火が窺はれ、カンカンカンと鳴る微かな太鼓の音が、もう合戦にとりかかつたらしい調子で聞えたが、どうも此間の太鼓の音に比べると、上調子であ
前へ 次へ
全22ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング