。」
鉄砲に自信を持つ正吉(大学生であるが通学を嫌つて何時も私達の後を伴いて回つてゐる弟)が、既に夕霞みが低く垂込めて灰色に煙つてゐる彼方の森を指差して、負け惜みを云つた。
ところが、その村には娘の知合の家があつて、娘が知らせたと見えて私達が河原に、テントを張り夜食にとりかゝらうとしてゐるところに、主が迎へに来た。是非一同に泊つて欲しい! と云ふのであつた。皆は辞退したが私は、テントよりも当り前の住宅の方を好む者であつたから、遠慮なくその主の大きな炉のある家へ赴き、馬の話に興がつて酔ひ倒れるまで酒を飲み、また、一行を呼び寄せ、手風琴を弾いて、ドンチヤン/\と踊つたり歌つたりした。
翌日は、次の村に到着しないうちに、谷川のある森で日が暮れかゝつたので、三つのテントを流れの傍らに張り、盛んな焚火をして、其処に泊つた。――正吉が、山鳥を一羽打つたので、そして娘が前の晩に家から※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]を一羽と野菜類をおくられたのがあつたので、私達は、平和な夜食を執ることが出来た。酒は、もう無かつたので、私達は焚火の傍らで、おそくまでポーカーの手合せに耽つた。――負けた者
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