らずには居られないだらう。」
「そんな同情をされても困るが――」
「好い加減にしろ、愚痴は止して貰はう。」
「親父のことはもうお終ひだと云ひ、そしてそんな評価とかなどを拵へたりしながら――彼奴[#「彼奴」に傍点]は何といふ虫の好い小僧だらう。」純吉はそんなに呟いで、変に無気になつて苦い唾を吐いた。「彼奴[#「彼奴」に傍点]といふのはこの俺のことだ。それにも関はらず、いけ図々しい甘ツたるさを振りまいて、彼奴はまた親父のことを書きやアがつた、つい此間! 然も長たらしく! 恥知らず奴! 文学とは何だ、小説もないもんだ。自分で自分のことを(不孝な子)が聞いてあきれる――三千尺の地下に静かに眠つてゐる父へ、またしても呪はれたる愚かな双手を差し延べるとは何事だ。」さう思つて胸を掻き※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]る思ひにされた時、ふつと彼は、
(それにしても、あの騒々しい親父が、斯うも急にぴつたりと鳴りを静めたかと思ふと、何といふアツケないことだらう、恰で花火のやうぢやないか。)そんなキヨトンとした心が白く浮んで、危ふく失笑するところだつた。
「おい/\。」と川瀬が彼の肩を叩いた。「
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