でない、誰が見ても、直ぐに目だつ程な可笑しいキンチヤク頭であるとか、少くとも当人の前ではそれに関する話は遠慮しなければならない、当人もそれを非常に苦にしてゐるが、絶対的のことだから仕方がない、それ程目だつて普通でない格好だとする、その男は、若し細君がどんな場合にも頭の格好についての話をすると、それだけには大変敏感に己れを感じて、突然、怖ろしく不気嫌になる――さういふ種類の、気の毒な滑稽感を抱いて我慢した。それに類する、哀れむべき不具な一個が彼の性質の何処かに一つ凸出してゐるに相違ない――そんな想像を回らせてゞもゐないと彼女は、我慢することが出来なかつた。
「余外なことを云ふなよ、出しやばり!」
彼女が、思つた通り彼は、憤つた口の利き方をした。――Nは、一寸困つて、
「夏、ヲダハラへは帰らないの?」と彼女に訊ねた。
「どうするんだらう。」
彼女は、厭に気むづかしさうな振る舞ひをする彼に、ヒステリツクな反抗を覚えてゐた。……(何でもないときに、折角皆なが、おだやかな心になつてゐるときに、直ぐに何とか難癖をつけたがる、……あれが嫌ひだ、ほんたうに嫌ひだ。)と思ふと、此方こそ無暗に肚がたつ
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