がワツと叫んで僕とミツキイに飛びかゝつた時、ミツキイは手早く引金を引いたのだ――無論空砲なのだが、銃声が響き渡ると、奴等は忽ちワーツといふ悲鳴をあげて戸外へ転げ出た。
「警官なんて居ない村だよ。場合に依つたら実弾込めて、奴等の脚もとをねらつて御覧!」
僕が続けて空砲を打ちながらミツキイに告げると、彼女は狂喜の叫びを挙げて、腰帯から弾丸を取り出すと、正しく実弾を込めた。
Hurrah《ウラー》 !
ミツキイは、ラルウに飛び乗つて河堤を一散に追跡したが、必死になつて逃げ惑ふ狼達の速力は、馬よりも速やかで、銃声が鳴る毎にぴよんと宙に飛びあがつたり、尻持ちをついたりしながら、空に向つて救けを呼ぶ声が続いた。
「ミツキイ、ミツキイ――早く出発の用意をしないと日暮れまでは市に着き損ふから、もう引き返してお出でよ。」
僕は、声を限りに呼ばはつたが、ミツキイは堤下《どてした》のもろこし畑に逃げ込んだモモンガアを追ひまくつて、切《しき》りに短銃の音を響かせてゐた。
僕はお銀と二人で堤の上から、嵐のやうにざわめいてゐるもろこし畑の騒ぎを見物してゐたが、僕の呼声に応じて時折答へるミツキイの音声は、
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