の中を怯やかせたこともある。

     二

 毎日僕は目醒しい労働をつゞけてゐるので、ミツキイよりも先に目を醒したことはなかつた。僕が起きる頃には大抵もう朝餉の仕度が出来て、ミツキイは僕の出て来るのを待ち兼ねて、煙草をくわへながら囲炉裏の傍らでカルタを切つてゐることが多かつた。
 朝は、前の日の労金を受けとりに来る者や、出勤の札を預けに来る人々で、事務所の受付口は仲々混雑するのであつたが、稍早めに出て来た人々は囲炉裏のまはりに集つて四方山の話に耽つてゐるのであつたが、僕が出て行くまでのミツキイは、言葉の通じないのは苦痛でもなかつたが、西洋人であるといふことで何となく人々の注視を浴びるのに向つて、容易ならぬ身のこなしの六つかしさに辟易した。
 私は、だから目醒めると直ぐに、その「食堂」に駆け込んで、元気一杯に其処に集つた人々に向つて朝の挨拶を浴せると、
「ジヨンニー、綺麗な天気が続くぢやないか。」
 などゝさりげなく呼はりながら、ミツキイの椅子の腕に凭つて――挙動さへ互ひに飽くまでも男同志らしく振る舞つてゐれば、会話は何を喋舌らうと自由であつた。
「さつきから、何うも伝の目つきが怪し
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