※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]つた。
「おい、何うだい、今のうちに皆なで一風呂浴びようぢやないか。」
突然そんなことを云ひ出した男があつた。
「ジヨンニーさんも一緒に入れ――俺らが背中を流してやらうよ。」
「あつはゝゝゝ、ジヨンニーさんはお前と一緒でなければ、うんと云はねえか?」
さう云つて僕の方へ顔を突き出した男の酒臭い呼吸《いき》が、僕の鼻先に触れた時、僕はいよ/\堪らなくなつて、
「馬鹿ツ!」
と一喝すると同時に、力任せに其奴の頬つぺたをグワンと擲つた。
――ミツキイは、何時もの僕達の単なる酒興の戯れかとばかり思つて、相変らずのアパツシユ気どりの身構へで頬笑んでゐた。
「おや/\、怒つたのかね?」
「あたり前だ――あんまり人を馬鹿にするない。」
「面白いね。喧嘩かね?」
むく/\と起きあがる男があつた。
「ジヨンニーは――俺の雇主のお嬢さんミツキイてんだ。それが、何うしたんだと云ふんだ。」
僕も起き上つて叫んだ。
「よしツ!」
と、伝が叫んだ。
「手前達こそ俺達を馬鹿にしてゐやがつたんだ。畜生奴、女と、事が決《わか》れば、もう此方のものだ。」
男共がワツと叫んで僕とミツキイに飛びかゝつた時、ミツキイは手早く引金を引いたのだ――無論空砲なのだが、銃声が響き渡ると、奴等は忽ちワーツといふ悲鳴をあげて戸外へ転げ出た。
「警官なんて居ない村だよ。場合に依つたら実弾込めて、奴等の脚もとをねらつて御覧!」
僕が続けて空砲を打ちながらミツキイに告げると、彼女は狂喜の叫びを挙げて、腰帯から弾丸を取り出すと、正しく実弾を込めた。
Hurrah《ウラー》 !
ミツキイは、ラルウに飛び乗つて河堤を一散に追跡したが、必死になつて逃げ惑ふ狼達の速力は、馬よりも速やかで、銃声が鳴る毎にぴよんと宙に飛びあがつたり、尻持ちをついたりしながら、空に向つて救けを呼ぶ声が続いた。
「ミツキイ、ミツキイ――早く出発の用意をしないと日暮れまでは市に着き損ふから、もう引き返してお出でよ。」
僕は、声を限りに呼ばはつたが、ミツキイは堤下《どてした》のもろこし畑に逃げ込んだモモンガアを追ひまくつて、切《しき》りに短銃の音を響かせてゐた。
僕はお銀と二人で堤の上から、嵐のやうにざわめいてゐるもろこし畑の騒ぎを見物してゐたが、僕の呼声に応じて時折答へるミツキイの音声は、
前へ
次へ
全14ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング