な顔を保つて自分が、彼等に、俺の友達ばかりが君達のお銀にもてはやされるのを見てよくも平気で居られるね? などゝ訊ねたりしたことが、吾ながら滑稽で、口惜しかつた。
 お銀に聞いたところに依ると、もう彼等はずつと前からミツキイのことは感づいてゐて、いつか僕達がお銀を救ひに走つた時だつて、彼等の方が先を越して、はじめから、その魂胆であつたさうだつた。お銀を伴れ出す素振りで、僕達が聞き耳をたてゝゐるのも承知で、僕達の部屋へ忍び込んだのは、ミツキイの寝姿を見物するのが目的だつたといふことであつた。だが、その時はミツキイが武装のまゝ、ピストルを握つたまゝ椅子でうたゝ寝をしてゐるので、彼等は非常に落胆したといふことであつた。――どうかして僕達の手から短銃を奪つた後に、いよ/\ミツキイを掠奪しようと計画してゐるのであるが、彼等は飽くまでもピストルといふものを怖ろしい生物のやうに考へてゐて、うつかり触らうものなら無闇に弾丸が飛び出して来て、己れに命中するであらうと思つてゐるので、たぢろんでゐるのだ――等々のことを僕はお銀から聞かされた。
「お銀ちやん、ジヨンニーは承知だつてよ、今直ぐにでも好いから伴れ出して可愛がつて来いよ。」
 云ひながら、伝は僕に向つて、ミツキイが遠慮なくお銀を自由にするように――早く、ミツキイに通じて呉れ! などとせきたてるのであつた。
 そして彼等は、僕が何も気づいてゐないと思つてゐるので、さかんに卑猥なことを口にして、皮肉な哄笑を挙げるのであつた。
「お前は、ジヨンニーなんて云ふ友達があるから、休みの日であらうとなからうと、村になんて来たくはなからうね。」とか「男同志でも、お前達位仲が好かつたら、色女などは欲しくはあるめえよ。」
「あつはつは……、異人といふのは男でも、女のやうにおとなしいものかね。」
「俺達にも、ちつと英語とやらを教へて呉れろよ――何とか云つて、口の先をくつ付け合ふ、そこんところだけで好いから、言葉を教へて呉れよう――伝や、禿鷹なんぞぢや真つ平だが、ジヨンニーさん見たいな綺麗な男とならば……だね。」
 彼等は、次第に酔の火の手をあげて、大騒ぎであつた。お銀からの理由を訊かぬ昨日までは、思へば、それに類するお世辞見たいなことを屡々彼等から聞かされて僕は却つて得意さうな顔を保つてゐたものゝ、今となつて見ると、毒々しい皮肉が僕の胸を嵐のやうに掻き
前へ 次へ
全14ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング