ぐにも聞いたはなしで、彼等が夜歩きや踊り見物に現れるのを見出す者は無かつた。
「僕達としたつて、若しも此処の青年だつたら、やはり彼等を狙ふだらうな。」
「それあ、もう誰にしろ当然で、私なら先づ最初に法螺忠を――」
「彼等は自分達が狙はれてゐるのを秘さうとして、俺などを巻添へにするやうだよ。どう考へても俺は自分が彼等より先に担がれようなどゝは思はれないよ。」
「無論その通りですとも。奴等の云ふことなんて気にすることはありませんさ。」
私と御面師は、そんなことを話合ひ、寧ろ万豊やJ氏が先に難を蒙つたのを不思議としたこともあつた。
私は、囲炉裡のまはりに、偶然にも容疑者ばかりが集つたのを、改めて見廻した。そして、人の反感や憎念をあがなふ人物といふものは、その行為や人格を別にして、外形を一|瞥《べつ》したのみで、直ちに堪らぬ厭味を覚えさせられるものだとおもつた。人の通有性などゝいふものは平凡で、そして適確だ。私にしろ、若しも凡ての村人を一列にならべて、その中から全く理由もなく「憎むべき人物」を指摘せよと命ぜられたならば、やはりこれらの者共と、そして万豊とJを選んだであらうと思はれた。
杉
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