狐や赤鬼に嚇《おどか》されて肝《きも》を潰《つぶ》したり娘たちがひょっとこに追いかけられたりする騒ぎが頻繁《ひんぱん》に起ったりするので、当分の間は子供の夜遊びは厳禁しようと各戸で申合せたそうだった。

       三

「水流《つる》さんや、お前《め》えもよっぽど用心しねえと危《あぶ》ねえぞ。丸十の繁から俺は聴いたんだが、お前えは飛んだ依怙贔負《えこひいき》の仕事をしているってはなしじゃないか、家によって仕事の仕ぶりが違うってことだよ。」
 杉十郎は自分に渡された面をとって、裏側の節穴を気にした。
「俺ア別段どうとも思やしないんだが、人の口は煩《うるさ》いからな。」
 彼は一度村長を務めたこともあるそうだが、日常のどんな場合にでも自分の意見を直接相手につたえるというのではなくて、誰がお前のことをどういっていたぞという風にばかり吹聴して他人と他人との感情を害《そこな》わせた。そして、その間で自分だけが何か親切な人物であるという態度を示したがった。彼も例の黒表の一名だが、おそらくその原因は、その「親切ごかし」なる渾名《あだな》に依ったものに違いなかった。伜《せがれ》の松二郎がまた性質も
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