こも》ったきりで、たまたま外気にあたってみると雲を踏んでいるような思いもしたが、さすがに胸の底には生返った泉を覚えた。――随分とみごとに面の数々がそちこちの家ごとに行渡ったもので、家々の前に差かかる度に振返って見ると、夕餉《ゆうげ》の食卓を囲んだ燈《あかり》の下で、面を弄《もてあそ》んでいる光景で続けさまに窺《うかが》われた。どこの家も長閑《のどか》な団欒《だんらん》の晩景で、晩酌に坐った親父《おやじ》が将軍の面をかむってみて家族の者を笑わせたり、一つの面を皆なで順々に手にとりあげて出来栄《できば》えを批評したり、子供が天狗の面をかむって威張ったりしている場面が見えた。そろいの着物なども出来あがり、壁には花笠や山車《だし》の花がかかって、祭りの近づいているけしきはどの家を眺めても露《あら》わであった。
「皆な面をもって喜んでいるね。万豊の栗拾いたちが、好《よ》くもあんなにそろって面を持出したとおもったが――飛んだ役に立てたものだな。」
「なにしろ玩具《おもちゃ》なんてものを不断|持扱《もちあつか》わないので、子供の騒ぎは大変だそうですよ。」
 うっかりと夜道を戻って来た酔払いなどが突然
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