「そりやア、向ふぢや何もお前を無理に呼び寄せようとはしないだらうがさ、ヲダハラの阿母さんだつて……」
――どうしても阿母を罵しらせるつもりなんだな、この俺に……斯う俺が思ふのは、決して邪推ぢやない、邪推なもんか、この狐婆ア奴、どつこい、そんな手に乗つて堪るものか、チヨツ!
「あゝ、厭だア!」と、彼は、顔を顰めて溜息を衝いた。
「だが、可愛想になア、お前も。お前は、これで規丁面なたちなんだものねえ。」
――ばか[#「ばか」に傍点]されたやうな顔をして、あべこべにばか[#「ばか」に傍点]してやらうかね、何の斯んな婆ア狐ぐらひ……阿母さんの悪口なんて云ふもんぢやないよ、なんて諫めたいんだな、心では快哉を叫びながら――などと彼は、敗ン気な邪推を回らせたが、何としてもばか[#「ばか」に傍点]し返す手段として、自分の母を選ぶわけには行かなかつた。と、云つて彼には、他の方法は一つも見出せなかつた。――全く彼は、この婆アさんに心まで見透され、操られ、打ちのめされてしまつたのである。いくら口惜しがつても無駄だつた。笑ふことも憤ることも出来ない穴の中に封じ込まれて行くばかりだつた。――彼は、口惜しさ
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