られるのではなかつたが、長い間の習慣で何としても行儀は改められなかつた。
「東京にでも行つて住ふことになつたら、どうするんだらう。」
母は、好くさう云つた。――ケチな家には住まないから……などと彼は、うそぶいた。
周子から、肌抜ぎになつてゐるところを巡査に見つかると罰金をとられる、といふ話を聞いて以来、こゝで彼は、肌抜ぎだけは辛棒したが、暑くなるに伴れ、檻にでも入れられたやうな苦しみだつた。――彼は、海辺が恋しかつた。
「××の家も、もう人手に渡つてしまつたんだつてさ。」
裸のまゝで海へ出かけ、その儘帰れて、近所といへば二三軒の、それこそ年中裸で仕事してゐる彼と親しかつた漁夫の家だけで――そんな海辺の家を彼は、思ひ出して悲し気に憧れの眼を輝かせた。
「あれなどは、君さへもう少し確りしてゐれば、たしかに残せた筈なんだがな。」
藤井は、さう云つて、何とかといふ村会議員のことを悪党だと云つた。
「酷い奴だなア!」と、彼も云つた。
「こんな処で、愚図/\云つてゐたつて仕様がないよ、だから君、思ひ切つて……」
「でも帰つたところで、反つて……」
「第一マザーひとりで気の毒じやないか。」
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