Iの余興と思つたらしかつた。その上彼は、
「そんなら今度は、狐に化されるところを演つて見よう。」などと云つて、膳の上を片づけ、それを両手でたてにさゝげ、
「狐に化されると、こんなものがほんとの鏡に見へるんだぜ、いゝかへ……」――「斯うやつて飲んでゐるこの酒が、実は馬の小便でさ。」
彼は、片手で盃を干し「あゝ、うめえ、うめえ……コリヤ/\ツと。」――「俺が斯んなに女にもてたのは始めてだぞ。まさか夢ぢやアあるまいな。どれ/\、どんな顔をしてみるか一寸鏡を見てやらう。」
そんなことを云ひながら彼は、気取つた顔をして凝ツと「鏡」を覗き込んだ。
「子供の前で、何です。」
突然、母が叫んだ。
「いや、諸君。」と、彼は子供達に向つて云つた。「若し誰かゞ狐に化されたならば、だね。そいつの背中か頭を力一杯殴つてやると気がつくさうだよ、――斯《か》う。」と云つて彼は、ポカリと自分の頭を殴り、急に夢から醒めてキヨロ/\とあたりを見廻す動作を巧みに演じた。
「冗談にも程がある、第一縁儀が悪いよ、塗物に顔を写すと気狂ひになるツ!」
母は、ぶつ/\云ひながら彼の手からお膳を取りあげてしまつたさうである。そ
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