うに見へた。
 はぢめは同情の念に堪へられなかつたが、いつの間にかそれも春の晩の長閑な光に溶けこんで、歌でもうたひながら呑気な仕事を続けてゐるようだつた。それにしても、その姿は、火をとりに現れた不思議な蛾に違ひなかつた。――皆なが歩き出したので私も従つたが、余程離れて振り返つても、未だ彼は、塔の頂きに凝ツと止つてゐた。



底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
   2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 オール讀物号 第一巻第三号」文藝春秋社
   1931(昭和6)年6月1日発行
初出:「文藝春秋 オール讀物号 第一巻第三号」文藝春秋社
   1931(昭和6)年6月1日発行
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2009年12月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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