と拒みました。
「この次の時に――」
「では、その時頼む。」
「ぢや、さよなら!」と云つてAは、私の手を握りました。彼にはそんな癖があつて私は、普段からAとさようならをする時のそれが厭で、つい/\延ばすのでしたが、この日はまた馬鹿に仰山に握手をして私の顔を赧くさせました。――未だ見たこともない其処の話をAは、調子づいて面白く語り過ぎたのではなからうか? それで俺の同行を聞いて急に困つたのかも知れない、一体Aには愚かな誇張癖がある。さうだ、眠さを紛らす例の苦し紛れに不図自動車を見た時に話材にありついて、出たら目を云つたのかも知れない、彼奴があんなことに興味を持つてゐる話は何時にも聞いたことがない……よしツ、今度来やがつたら飽くまでも空とぼけて、同行のことを熱心に追求してやらう――と私は思ひました。(彼奴、屹度途中で自働車を降りて秘かに引き返したに相違ない、それにしても独りになつたら何んな風にあの眠気と戦つたらう、あんなに酷く眠がつてた人間を、俺は未だ嘗て見たことがない。望遠鏡の下に寝台があると自分で云つた時なんか、彼奴! 思はずふらふらとよろけやあがつた!)――(可哀想に、それ位ならもつ
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