とは叫びながらも深い苦し味があるものではなく眠気にさへ打ち勝てば好かつたのだから――私達は、勉強の余暇に散歩に出た学生のやうに呑気なのです。暗記物を口吟んでゐる者のやうでもありました、Aは。
「生活の単なる結果でも好いわけなのだが、その思索と生活があまりに貧しく――」
「おや、あの小さい茶色の鳥は何だらう? おツ、またもぐつた! ホツ! また、あんなとこに浮びあがりやがつた!」
「生活の変化を事更に求めるにも当るまい、若し五感が円満であつたならば……」
「おツ、一羽ぢやない、あんなところからまた頭を出したぞ、随分息が長いんだな!」
「徒らに己れを卑下したがるのは一種の神経衰弱の状態か? だが俺にとつては、徒らでもなく……」
「二羽! 三羽! 随分沢山居るんだな! おやツまた皆な居なくなつた!」
「止めた/\/\――当分! 行くと決めよう/\、無神経な妄想に走つてゐられる場合でないのだ。」
「妙な鳥だね、あれは!」
 私は、はぢめて見た消えたり現れたりする水の上の小鳥を面白く見ました。
 池を一周して私達は帰途に就くべく街へ出ました。街へ来るとAは、もう非常識な放言も出来ないし、それにも
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