はいつも勿論私は当り前にペンで書いてゐる。そしてFにも、この四五年以来は――。)……斯うなると面倒だな。今年あたりを区ぎりにして彼等の記憶から自分を消してしまふのも、もう好い頃ではなからうか。」
そんなことを私は退儀に思つてゐたが、テーブルの上に据えてある吸入器が噴きはじめたので、その楚々たる湯気で静かに口腔を湿ほし続けた。――久しく使はないうちに子供に蒸汽機関の代りに玩具にされてすつかり役に立たなくなつてゐるのを知つて私が、二三日前に買つて来た新しい吸入器である。
[#地から1字上げ](十四・十二)
底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房
2002(平成14)年3月24日初版第1刷
底本の親本:「新潮 第二十三巻第一号」新潮社
1926(大正15)年1月1日発行
初出:「新潮 第二十三巻第一号」新潮社
1926(大正15)年1月1日発行
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年1月17日作成
2010年5月23日修正
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