植物の始末をした。母家に泥棒が入つた翌朝、一同が家の周囲を検査すると、温室には莚の寝床や酒樽や食物などが散乱してゐるのを発見した。夜々、泥棒が此処を住家にして母家の様子を窺つてゐたといふことが判明して、被害を私のせい[#「せい」に傍点]のやうにされてしまつたことがあつた。――ベン船長は私の父よりも十歳も年上だが、今では船長をやめて米国費府の田舎に多くの家族を従へて幸福な日を送つてゐる。今では、年に一回、彼からはクリスマスの賀状を貰ひ、私は、年頭に[#横組み]“I wish you a happy new year”[#横組み終わり]と書き送るより他に往復はなくなつた。尤も、いつか私の父が死んだ時の通知は、六つかしく私が書かされた。
「こゝではストーブを焚く余地もないな。――陽のあたらない寒い日はどうしようかしら……」
そんなことも思ひながら私は、その中で椅子の上に丸くなつて胡坐をかき、居眠りをしたり、絵本を眺めたりした。
「……曇りの日のことなんてどうでも好いさ。それまでには倦きてしまふかも知れないし、その時になつたらまた何か考へが浮ぶだらう、困れば――。……だが、この好い天気は当分保つらしい様子だ。」
私は、雑誌を読んだり、眼かくしがしてあるので外は見えなかつたから天井を仰いで、戯曲的な空想に走つたり、また不図、ふところに顔を埋めて、故郷に居る母や弟のことを空に思つたりした。――誰の眼にも触れないところだと私は、思ひ切つて芝居染みた思ひや挙動をするのが癖だつた。
陽の射し具合が強すぎるので私は、いつも其処では帽子をかむつてゐた。
陽脚に従つて、光りがテーブルの上に落ちたり、顔にあたつたりして煩さかつた。そんなに長い時間を私は、此処に坐つてゐる気もなかつたのであるが、斯うなると私は日向葵とうらはらな心の用意も必要になつた。午後に入ると一層短く陽脚の傾くのが見えたが、その度毎に目かくしの紙をあちこちと貼り換へるわけにも行かなかつた。
――「屋外写生の時に用ひる、あのパラソルを買つて来て軒先きに差しかけようかしら、あれなら柄が伸縮自在、折曲も自由になるから具合好く陽を避けることが出来るだらう、こんなに陽脚の慌しい日にも? ――だが、少し小さ過ぎるかも知れないな? 夏、海辺で使ふやつなら大きさは恰度好いかも知れないが、あれは柄が曲らないから駄目か!」
秋の半ば
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