うな歌をうたひながら、白々と東の空が明るむ頃ほひまでも窓に凭りかゝつて、絡繹と連る行列に見惚れた。(――その一節)
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……かくの如き人波の中
楊柳を折り芙蓉を採る
瑶環と瓊珮とを振ひ
鏘々として鳴つて玲瓏たり
衣は翩々として驚鴻の如く
身は矯々として游竜の如し
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 ……と、などゝ、いつまでも歌ひつゞけて。
 この頃私は、「悲劇」「喜劇」の出生と、その岐れ道の起因に関して深く感ずるところから、劇なるものゝ歴史について遠くその源を原始の仮面時代の空にさ迷つてゐたところ、計らずもガスコンの原始民族が、酒神サチユーロスを祭る大祭日に、恰もこの竜巻村の神輿行列にも等しい仮装行列の一隊を組織して、バラルダと称する大太鼓を先頭に曳いて、山上の酒神の宮へ繰り込むといふ有様を詳さに伝へた文献に出遇つて、目を丸くした。パン、ユターピ、カライアーピ、バツカス、エラトー、ユレーニア等々と、山羊脚を真似、葡萄の房をかむり、狐頭《ガラドウ》や犬頭《アヌビス》、星の倅、恋の使者、雲の精と、とりどりの扮装を擬した行列が、手に手に携へた|羊角型の酒壺《ジーランド》を喇叭と鳴
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