るから、若しこの辺で雪子をつかまへることが出来たら、その頬に熱い接吻を寄せたにしても、丘の上の審判官に見つかることもないだらう。雪子は、それを何んな風に享けるであらうか?
三木は、たてがみ[#「たてがみ」に傍点]の中に顔を埋めて、雪子との結婚を空想した。――ドリアンは煙草畑を一周すると再び丘へ向つて、昇りはじめてゐた。
丘の上から口笛の音が鳴り渡つてゐた。不図ドリアンが坂の中途で脚を止めた。
「三木さん――」
雪子の声で三木が顔をあげて見ると、はじめの丘の上に青木と並んで、ちやんと雪子が立つてゐた。そして、二人は、さも/\気の毒さうに微笑んでゐた。
「何時の間にか、そんなところに戻つてゐたな。よし、今行つてつかまへてやるよ。」
三木は虚勢を示した。
「あたし、はじめからこゝにゐて、ドリアンに合図をしてゐたのよ。こゝから下まで充分声がとゞくから、ドリアンは全くあたしの自由だつたのよ。気がつかなかつたの、三木さんは?」
三木は無念だつたが何うすることも出来ずあかくなり、そのまゝ丘の上まで進まうとすると、またドリアンは彼の手綱では動かないのだ。――と雪子が、口笛を鳴らし、手まねきを
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