んで、少々意地悪になつてやつたのよ。で――そんな御恩があるんならお断りするわけにはゆきませんわね、たゞあたしは未だ自分にはそんな話は早いと考へてお断りしてゐたゞけなんですけれど――あたしは、そんなことをいつて息子の顔を凝つと見てやつたのよ。そしたらね、息子の奴ツたら、とても真面目な顔をして――(僕と君の間で――)だつて! 何が、僕と君だ! とあたしは疳癪を怺へて神妙にしてゐると――(そんな水臭い話は必要ないでせう)――なんて、済して弁士の声色見たいなことをいふのよ。あたし噴き出したくなるのを、やつとこらへてゐたけれど……。さう/\丁度、この辺のところだつたわ、矢ツ張りあたしがあの汽車で東京から帰つて来ると、何うして知つたのか聞きもしなかつたけれど、息子はドリアンの馬車でちやんと迎へに来てゐたの――。……その時、もう少しで彼奴にキツスされてしまふところだつたわよ。」
「キツスだつて! そして、何うして逃れたの?」
三木は胸をふるはせて問ひ返した。
「それがね、ハズミつて随分怖ろしいものだわ、あんまりその偶然の出来事があざやか過ぎて芝居見たいだけれど……息子は前後のわきまへもなく一途に昂
前へ
次へ
全31ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング