ガール・シヤイ挿話
牧野信一
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)予々《かね/″\》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)何|故《ゆゑ》に
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)非常に/\。
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
僕(理科大学生)は、さつき玄関でチラリと娘の姿を見たばかりで一途にカーツと全身の血潮が逆上してしまつて(註、ガール・シヤイを翻訳すれば、美しい女を見ると無性に気恥かしくなつて口が聞けなくなる病――とでも云ふべきであらう。)慌てゝ自分の部屋へ逃げ込んでしまつた。
「おーい、二郎、来ないか?」
兄貴が呼んだ。僕はゾーツとした。――斯う逆上すると、それが何んな原因に依る感情であるか(有頂天の法悦にひたり酔つてゐた筈だツたが)――などといふことは反つて忘れてしまつて、厭世観に誘はれて来る。
僕は堅くなつて兄貴の部屋に入つて行つた。わざと何気ない素振りを装はうとする努力が、却つて僕の態度を堅くしてしまふのだ。
兄貴は僕の顔を見るがいなや、変に快活気な調子で、
「フロラさんだよ
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