、私に私達の創作の仕事の後の容貌を連想させた。
 私は、ひとりひとり彼等の寝像を正し、枕をあてがひ、風邪を気遣つて被着を探してゐた。――斯んな出来事は知らずに先へ行つたアルジエリアのマントが、櫓の上から、頻と私の新しい名前を呼んでゐるらしかつたが、広場の騒ぎと、三人の鼾きの雷鳴にさへぎられて、何うしても私の耳には、それ[#「それ」に傍点]が判別が出来なかつた。
 三人の寝像を憂慮しながら、あれこれと手を回してゐる私の振舞ひは、怖ろしいサアベルなどを携へた原始族でありながら、さながら女のやうにものやはらかであつた。



底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
   2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 第十巻第十号」文藝春秋社
   1932(昭和7)年9月1日発行
初出:「文藝春秋 第十巻第十号」文藝春秋社
   1932(昭和7)年9月1日発行
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年1月17日作成
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