》りと激した身振りで憤激の煙を挙げているらしい。彼は実に気短かな男で、経川と私が少しばかりの酒代の負債が出来たところが、いつかその支払命令に山を越えてアトリエにやって来た時丁度経川の労作の「マキノ氏像」が完成して二人でそれを眺めていると、
「馬鹿にしている、こんなものをつくりあがって!」と私達を罵り、思わず癇癪の拳を振りあげてこのブロンズ像の頭を擲《なぐ》りつけて、突き指の災《やく》に遇《あ》い、久しい間|吊《つ》り腕《うで》をしていたことがある。今日も人をとらえて私達の無責任を吹聴《ふいちょう》しているのだろう。
 ――「おやッ井戸換えの連中がこっちを見上げて何か囁き合っているぞ!」
 私はギョッとして、慌てて顔を反対の山の方へ背《そむ》けた。漸く、あの森が、丘の下に沼のように見えるあたりまで来ていた。幽婉縹渺《ゆうえんひょうびょう》として底知れぬ観である――不図耳を澄ますと、森の底から時折銃声が聞えた。二三発続け打ちにして、稍々暫く経《た》つと、また鳴る。
 私は更に不気味に胸を打たれた。あの団長の喫煙ではないかしら? と思われたからである。理由《わけ》を知らぬ村人は猟師の鉄砲の音
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