的進行の時である。現在というものは無内容である、現在が形を有たない、把握することのできない瞬間の一点と考えられる。過去と未来とは把握することのできない瞬間の一点において結合すると考えられる。物理的に考えられる時というのは、かかるものであろう。物理的に考えられる世界には、生産ということはない、同じ世界の繰返しに過ぎない。空間的な、単なる多の世界である。生物的世界に至っては、既に生産様式が内容を有つ、時が形を有つということができる。合目的的作用において、過去から未来へということは逆に未来からということであり、過去から未来へというのが、単に直線的進行ということでなく、円環的であるということである。生産様式が一種の内容を有つということである、過去と未来との矛盾的自己同一としての現在が形を有つということである。かかる形というのが、生物の種というものである。歴史的世界の生産様式である。これを主体的という。生物的世界においては既に場所的現在において過去と未来とが対立し、主体が環境を、環境が主体を形成すると考えられる。而してそれは個物的多が、単なる個物的多ではなくして、個物的として自己自身を形成するということである。しかし生物的世界はなお絶対矛盾的自己同一の世界ではない。
真に矛盾的自己同一的な歴史的社会的世界においては、いつも過去と未来とが自己矛盾的に現在において同時存在的である、世界が自己矛盾的に一つの現在であるということができる。生物の合目的的作用においては過去と未来とが現在において結び附くといっても、なお過程的であって、真の現在というものはない。従って真の生産というものはない、創造というものはない。私が生物的生命においては作られたものが作るものを離れない、単に主体的だという所以《ゆえん》である。然るに歴史的社会的世界においては何処までも過去と未来とが対立する、作られたものと作るものとが対立する、而してまた作るものを作るのである。生産せられたものが単に過去に入り去るのでなくまた生産するものを生産するのである、そこに真の生産というものがあるのである。世界が一つの現在となるということは、世界が一つの生産様式となるということであり、それによって新な物が生れる、新な世界が生れるということである。それが歴史的創造の生産様式である、唯環境から因果的に物が出来るというのでもない、また単に主体的に潜在的なるものが顕現的となるというのでもない。創造ということは、ベルグソンのいうように、単に一瞬の過去にも還ることのできない尖端的進行ということではない。無限なる過去と未来との矛盾的対立から、矛盾的自己同一的に物が出来るということでなければならない。直線的なるものが円環的なる所に、創造ということがあるのである、真の生産があるのである。
歴史的世界においては、過去は単に過ぎ去ったものではない、プラトンのいう如く非有が有である。歴史的現在においては、何処までも過去と未来とが矛盾的に対立し、かかる矛盾的対立から矛盾的自己同一的に新な世界が生れる。これを私は歴史的生命の弁証法というのである。過去を決定せられたもの、与えられたものとしてテージスとすれば、それに対し無数の否定、無数の未来が成立する。しかし過去というものが矛盾的自己同一的に決定せられたものであり、過去を矛盾的自己同一的に決定したものが真の未来を決定する、即ちアンティテージスが成立する。世界が矛盾的自己同一として創造的であり、生きた世界であるかぎり、かかるアンティテージスが成立せなければならない。而してその矛盾的対立が深く大なればなるほど、即ち真に矛盾的対立であればあるほど、矛盾的自己同一的に新なる世界が創造せられる、それがジンテージスである。現在において無限の過去と未来とが矛盾的に対立すればするほど、大なる創造があるのである。新なる世界が創造せられるということは、単に過去の世界が否定せられるとか、なくなるとかいうのではない、弁証法においていう如くアウフヘーベンせられるのである。歴史的世界においては無限の過去が現在においてアウフゲホーベンされているのである。人間となっても、我々は動物性を脱するのではない。
過去と未来とが自己矛盾的に現在において対立するというには、現在が形を有《も》たなければならない。それが歴史的世界の生産様式である。個人的立場からいえば、我々はそこに行為的直観的に物を見、また作られたものから作るものへということができる。逆に我々がポイエシス的なる所、行為的直観的なる所が、歴史的現在であるのである。生物の形というのは機能的である。生物が機能的に働くということが、形を有つということである。而してそれは矛盾的自己同一たる歴史的現在が、生産様式として一つの形を有つということである。しかしさきに
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