我が子の死
西田幾多郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)東圃《とうほ》君
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その間|一毫《いちごう》も
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]
[#…]:返り点
(例)征馬不[#レ]前人不[#レ]語
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三十七年の夏、東圃《とうほ》君が家族を携えて帰郷せられた時、君には光子という女の児があった。愛らしい生々した子であったが、昨年の夏、君が小田原の寓居の中に意外にもこの子を失われたので、余は前年旅順において戦死せる余の弟のことなど思い浮べて、力を尽して君を慰めた。しかるに何ぞ図《はか》らん、今年の一月、余は漸く六つばかりになりたる己《おの》が次女を死なせて、かえって君より慰めらるる身となった。
今年の春は、十年余も足帝都を踏まなかった余が、思いがけなくも或用事のために、東京に出るようになった、着くや否や東圃君の宅に投じた。君と余とは中学時代以来の親友である、殊に今度は同じ悲《かなしみ》を抱きながら、久し振りにて相見たのである、単にいつもの旧友に逢うと
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