い、三たび燈光を点け直し、静かに検めると、此の室の広さは分らぬけれど、壁に添うてズッと奥まで緋羅紗で張った腰掛台が列《つらな》って居て、其の前に確かに棺だろうと思われる大きな箱が、布の蔽に隠されて並んで居る、此の箱に何が収って居るかは余の問う所でない、余は唯、秀子は、秀子はと目を配るに腰掛台の端の方に伏俯向いた一人の姿は、見擬う可くもない秀子である、秀子、秀子、何が為に俯向いて居る、何が為に身動きもせぬ、若しや既に事切れとなった後にはあらぬかと、余は其の所へ馳せ寄った、爾して秀子の手を取ったが、悲しや其の手は全く冷え切って居る。

第百十回 毒蛇でも捨てる様に

 取った手先の冷え切って居るのは全く事切れた後の様では有るけれど、余は何となく秀子の身体に猶だ命が籠って居ると思う。
 真に秀子が死んだのなら、余は自ら制し得ぬ程に絶望すること無論であるけれど、何と云う訳か爾ほどには絶望せぬ、随分呼び活《い》ければ生き返る様な気がする。
 片手に冷えた手を持った儘に四辺を見ると、多分は秀子が持って来たのであろう、腰掛台の上に手燭がある、蝋燭は今より幾十分か前に燃えて了った物らしい、依って余は自
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