云え流石、女だけ、気の弱い所が有って、男ほどには行かぬと見え、此の語を発したまま気絶して、長椅子の上へ反返《そりかえ》った。
 余は何が何でもお浦には構って居られぬ、是だけの事が分ったに就いては益々早く秀子を尋ね出さねばならぬ。
 イヤ、待てよ、秀子を尋ね出した所で、猶権田時介との約束に縛られて居るのだから、少しも慰めの言葉を発する事は出来ず、飽く迄も秀子を汚らわしい罪人と信じて居る様に見せ掛けて居ねばならぬ、お紺婆を殺した下手人が分ったの、叔父に毒薬を与えた本人が知れたのとは※[#「※」は「くちへん+愛」、180−上14]《おくび》にも出されぬ訳だ、何たる辛い場合だろう、併し夫にしても秀子を探し出さぬ訳には行かぬ、探し出して何とかせぬ訳には行かぬ。
 幸い其のうちにお浦は人心地に復った、此の上は捨て置いても自分で回復するだろう、余は斯う見て取ったから「今誰か介抱する者を寄越します」と言い捨てて此の室を出で、此の家の女主《あるじ》を呼び、一応介抱の事を言い附けて戸表《おもて》へ出た、何うしたか知らぬけれど庭木に繋いで置いた余の馬が見えぬ、併し馬にも構って居る場合でない、其のまま外へ出て
前へ 次へ
全534ページ中438ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング