とても定めし悪事のみを為して世を渡って居た者に違いないと、余は知らず知らず以前の事まで遡って考えるに連れ、又大変な事を暁《さと》り得た、今の秀子、即ち其の頃の夏子が殺したと為って居るお紺婆の殺害者も若しや彼では有るまいか、叔父を毒害して其の疑いを秀子に被せようとする今の所行と、養母を殺して其の罪を夏子に着せた其の時の行いと何の相違が有る、正しく同じ人の心に出て、同じ人の手に成った、同一の事柄である、爾だ、愈々爾だ、昨夜権田時介も現に本統の罪人は此の人だと指示《さししめ》す事が出来ると云った、其の本統の罪人が此の高輪田長三でなくば、何うして此の人と指示す事が出来よう、エエ知らなんだ、知らなんだ。

第百二回 毒薬か、ハイ

 お紺婆を殺したのが果たして高輪田長三だと云う事は、別に証拠の有る訳ではない、けれど余はそう感ずる、只感ずる丈では何の当てにも成らぬとは云え、宛も磁石が北の方を感ずる様に、天然自然に感ずるので、之に間違いが有ろうとは思われぬ。
 何故此の感じが最っと以前に起こらなんだで有ろう、切《せめ》て今一日早かったなら、秀子を権田時介に救わせずして自分で救う事の出来た者を、縦しや
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