直ぐに立ち去りました、私は何処を何うすれば外へ出られるか少しも案内を知りませんから唯長三の言葉に従い彼の迎えに来るのを待って居る外はなかったのです。
「夜に入って後、彼は迎えに参りました、此の時は忍び提灯を持って居ましたから分りましたが、彼は一方の手に、書斎に在った卓子掛けを持って居るのです、兼ねて私も見覚えの有る印度の織物ですから、何んの為に其を持って来たと問いましたら、無言《だまっ》て見てお出でなさい、これが成功の種に成るのですと答えました、此の時は合点が行きませんでしたけれど、後で分りましたが、堀の中へ或る女の死骸を投げ込んだとき、其の卓子掛けに包みました」
 余は是まで聞いて殆ど恐ろしい想いがした、堀から出た彼の死骸も高輪田長三の仕業で有ったのか、彼の悪事は何れほど底が深いかも知れぬけれど、恐ろしさより先に立つは不審の一念だ、彼の死骸が何者であるかは今以て解釈の出来ぬ問題で、森主水は其の時、死骸に首の無いだけ却って手掛かりが得易いと云い、又其の首は倫敦で尋ねればなどと云ったが、果たして倫敦で充分の手掛かりを得たのであるか、未だ其の辺の事情を聞かぬけれど、兎に角も其の怪しさは今猶
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