です、此の薬は私が連斎に教えたのですが、彼は其ののち幾度も実用して分量の加減などは私よりも上手に成ったと見えますよ。
「夏子は中々勇気の有る女と見え、その危険な薬を、怯《ひる》みもせずに呑んだ相ですが、無論死人同様の有様に成ったと云います、折から七月の炎天の際故、一時も早く葬らねば死骸が腐敗すると云う口実を以て、権田時介が外面から運動し、少なからぬ賄賂《わいろ》を使い、其の力で到頭病院から死骸を引き取り、外の所へ葬ると云う許可を得たのです、爾して死骸を連れ出して、直ちに幽霊塔の庭へ葬った様に見せ掛けたが、実は薬の分量が宜しきを得た者か、予想の通りに蘇生して私の許へ来る事になったのです。
「サア斯様な訳ですから、夏子其のままの姿では一歩も外へ出る訳に行かず、尤も病院を出た時には髪の毛などもかなりに長く延びて居た相ですけれど、私の許へ連れて来るのに何うしても男姿として人目を眩《くら》ます外はないとて頭髪を短く刈ったのだと云いました、私の許に居る中に髪の毛は長く延び、其の第一号の顔型の箱へ、剪《き》って入れて有る通りに成りました」

第八十三回 一生の燈明

 先生は猶語り続けた。「延びた髪
前へ 次へ
全534ページ中359ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング