証拠が有っては到底承知せぬ訳に行かぬ、承知の仕にくいのは余の愚痴、余の未練と云う者だ、エエ男たる者が斯うも未練では仕方がない、と余は奮然として云い直し「己れ人殺しの悪女め、能くも淑女に化け替って今まで余と叔父とを誑《たぶら》かした、是からは其の手は食わぬぞ」と口の内で罵った。
 先生は嘲笑う様な調子で「何うです、最う迷いが醒めましたか」余「ハイ全く醒めました、少しの疑いも存《のこ》りません」先生「では秀子のイヤ夏子が此の家へ来てから、秀子と云う新しい生命を得て立ち去った迄の次第を一通り聞かせて上げますから、先ず落ち着いてお聞きなさい」とて再び余を、取り鎮める様にして椅子に凭《よ》らせ扨明細に説き出した。
「余計な事は省きまして千八百九十六年の七月の初めでした、医師大場連斎の手紙を持って英国の弁護士権田時介が私の許へ参りました、私は兼ねて権田氏の名だけは新聞の上で知り、且殺人女輪田夏子を熱心に弁護した人だと云う事も覚えて居ました。来訪の用事は、或る美人の顔を作り直して貰い度いが、全く同人と見えぬ様に作り直す事が出来るか、其の価は幾等であるか爾して其の秘密は何時までも無難に保たれるかと云う
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