る者はない。先ア好かった拙者は最う、貴殿が彼奴に絞め殺されては居ぬかと気遣ったが」穴川「ナニ身体は利かずとも短銃を持って居るからそう易々絞め殺される様な事はない、安心したまえ」医学士「でも茲を開けて呉れと云って貴殿が起きて来て開ける事は出来ず、全体此の戸は何うして錠を卸したのだ」云いつつ、頻りに戸の引き手を廻して居る。穴川「ナニ短銃で差図して彼奴に鎖《とざ》させたのだよ」医学士「では再び短銃で差図して開かさして貰おう」穴川「イヤ少し拙者と彼の間に話があるのだ、それの済むまで、例の室に控えて居て貰いたい」医学士「仕様がないなあ」と呟きつつ往生する様子であるが、今度は婆の声で「甚蔵や、甚蔵や、今度は大層旨く穴が掘れたよ。段々慣れて来る者だから次第に医学士の手際が好く成ってサ」穴川「エエ、其の様な余計な事を云うに及ばぬ」
叱り附ける声で、婆も黙って了った。余も此の時、器だけを残して丁度食事を終ったが、是等の有様に依り熟々感じた。成るほど秀子が、毒蜘蛛が網を張って居て、人を捕えて逃がさぬ様に話したのは茲の事だ、毒蜘蛛と云ったのは全く言葉の上の比喩《たとえ》で有ったけれど、学士と云い博士と云い
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