の謝意を表するのですか」穴川は余の顔を打ちながめて、「エ、エ、貴方ですか、大場医学士が貴方だとは云わぬ者だから」と言訳の様に云いつつも猶短銃を下げようとはせぬ。余は此の忙しい間にも大場と云う名を耳に留め、偖《さて》は秀子の服と思われる彼の日影色の被物から出た名刺に大場連斎とあったのが全く此の悪医者だなと、心の底にうなずいて「ハイ汽車の中から此の家まで貴方を介抱して来た当人です、ナニ未だ逃げもせず、貴方を害しもせぬから暫く其の短銃をお下げなさい」穴川「イヤ此の身体では此の外に頼りとする者も有りませんから下げません。けれどナニ貴方が正直にさえ仕て居れば、必ず射殺すと云う訳でもないから」余「では有体に云いますが、貴方に少し話が有るから、外の人に妨げられぬ様に此の室の戸を閉じなさい」余「鍵は何所にありますか」穴川「鍵は其の戸に附いた儘で有る筈です」成るほど錠前の穴へ填った儘である。余は全く此の家を立ち去る前に厳しく穴川に談判して置かねば成らぬと思う為、医学士の這入り得ぬ様、中から確かに錠を卸した。爾して室の中を見廻すと、穴川の枕許に、小卓の上へ、食物を盛った皿や飲物などが出て居る。多分は医学士
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