炉《すとうぶ》の様な所も有る、窓も有る、窓には大きな鉄の棒を竪に幾本もはめて有る、昔は多分立派な居室ででも有っただろうが今は全く牢屋も同様だ。窓の鉄の棒などの頑丈なことは、宛で熊でも縋り相だ。
又一方の壁には入口と違って通常の戸の締った出口の様な所が有る。アア此の室は一室ではなく、幾室か続いて一組の座敷を為して居るのであろう。次の室、居室、寝室と元は立派に備わって居たのかも知れぬと、更に其の戸を開けて見ると錠も卸りて居ぬ、全く次の室らしい、之へ歩み入って又探ると、茲は前の室と違い、様々の造作がある、押入、戸棚、化粧台の様な物も手に触わる、爾して片方には、オヤオヤ寝台がある、最一つ次の室が有ろうかと探って見ると、成るほど一つの戸口は有るけれど、此は固く締って居る、此の上に探ったとて同じ事よ、先ず寝台の有るのを幸いに、矢張り夜の明けるまで寝るより外は仕方がない。
寝台は爾ほど汚れても居ぬ様に思われる、埃の臭気は鼻に慣れて別に感じぬが、其の外に何だか鼻なれぬ香いがある、扨は女が此の間に居て今に化粧品でも残って居るのか知らん、余り心持の悪くない香いだ、臭気ではなく寧ろ香気だ、爾だ爾だ化粧台
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