に当たる。
占めた、占めた、最う秘密は手近で有ろうと又も燐燧を擦って見ると只の広い板の間で少し先の方に室らしい処が見え、入口の戸が新しく目立って居る、是だなと其の前へ立ち、暫く戸に耳を当てて居たが、其のうちに微かながらも異様な声が内から聞こえた。人だか獣だか夫までは分らぬけれど、長く引く呻吟《うめき》の声だ、其の物凄い事は何とも云えぬ。唯ゾッとする許りである。
第五十五回 暗《やみ》の中の一物
余が何よりの失念は蝋燭を買い調えて来なんだ一事で有る。此の様な時に燐燧の明かりほど便りない者は無い、少しの間、少しの場所を照すけれど、直ぐに燃えて了って其の後は一層暗くなる様な感じがする。若し衣嚢の中に忍び蝋燭が一挺あったら、何れほどか助かるだろうに、殊に心細い事は、生憎余が持って居る燐燧が残り少なく成って居る、数えて見ると僅かに十二本しか無いのだ、十二本の燐燧で暗い暗い此の蜘蛛屋の大秘密を見究める事が出来ようか。
けれど唯一つ幸いなは戸の鍵穴に鍵が填った儘である、猶予すれば益々恐ろしく成って気が怯む許りだから余り何事も考えずに、目を瞑って猛進するが宜かろうと、余は直ぐに其の戸を明けて
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